2024年のプライベート市場投資見通し

Nov 28 2023

パンデミックによる混乱、地政学的リスクの高まり、インフレの高騰に投資家は適応してきましたが、成長のボラティリティが高まり、資本コストの上昇や地政学的不安定が生じる世界では、調整が必要になります。2024年は、資産クラスやセクター、地域間のリターンのばらつきがさらに大きくなり、複雑な選択やトレードオフが必要になると予想されます。

「2024年の変化をうまく乗り切るためには、投資家はダイナミックなソリューションが必要になると考えています。運用の多様化やリスク管理に加え、アルファを生み出すオルタナティブ投資に対する積極的な戦略が重要になります。人工知能 (AI) を含む技術革新やサステナビリティにおけるディスラプティブな長期トレンドは、エキサイティングな新しい現実をもたらすはずです」とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント オルタナティブ・キャピタル・マーケッツ・ストラテジーのアジアパシフィック地域を統括するスチュアート・リグリーは述べています。

2024 年に世界の金融市場とプライベート市場の投資戦略に影響を与えうるテーマを、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントがご紹介します。

成長するプライベート市場は、インフレヘッジとリターンの向上、そして多様化を提供

プライベート市場の投資家は方針を変えていません。一部の企業は、市場の新たな現実や長期的なメガトレンドに対応するために大胆な変革を行う必要があります。四半期決算のサイクルを気にせずに変革をを非公開で実行するため、パブリックな資金よりプライベートな資金を好む企業もあります。

現在、プライベート・エクイティ、不動産、インフラ、クレジット資産には10兆ドル(約1500兆円)以上が投資されており、LP投資家もGPも、流動性の確保や投資に対するキャピタルソリューションの必要性から、セカンダリー市場をますます活用しています。

「金利が高止まりし、長期的な成長傾向が加速する新しい現実に適応したポートフォリオにするために、LP投資家はポートフォリオの持ち分を減らし、資産プールを潜在的な買い手に売却することができます。同様に、セカンダリー市場を活用することで、 GPはLP投資家に流動性を提供し、成熟したファンドで高いリターンをあげている資産の保有期間を延長することができます。優先株式など、セカンダリー市場を活用したストラクチャード・ソリューションも、流動性は必要だがポートフォリオや資産への長期エクスポージャーを維持したいLPとGP両方によって検討されています」とリグリー氏は言います。

同時に、プライベート投資の急増はパブリック市場の必要性を減じるものではありません。パブリック市場は迅速な投資が行えるほか、市場環境が変化したときにも即座に流動性を投資家に提供するなど、プライベート市場とは異なる機会を提供します。一つの資産クラスと別の資産クラスとのトレードオフではなく、各資産クラス間で適切なバランスを達成するものです。

「今は不確実性の高さもあり、プライベート市場の見通しは改善しつつあります。投資家はリセッションリスク、政治的・軍事的紛争、インフレ、高金利などのマクロ経済と地政学に常に留意すべきです」とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントアジア太平洋地域のプライベートエクイティ及びグロースエクイティ責任者兼アジア太平洋地域のプライベート投資共同責任者のステファニー・フィは述べています。

プライベートクレジットと不動産への投資機会

プライベートクレジットは、高いベース金利、魅力的なスプレッド、継続的な資金流入を背景に、2024 年も引き続き魅力的な資産クラスとなるでしょう。LP投資家がプライベートクレジットへのアロケーションを増やしたことで、運用資産は増加し、より大きな規模の取引ができるようになりました。

「シンジケート市場で広く見られた最近の混乱とボラティリティによって、プライベートクレジットの市場シェアが拡大しました。プライベートクレジット市場にアクセスしやすい特徴を備えた、特約付きタームローンやPIKローンなど、カスタマイズされた融資ソリューションに対する需要が高まっています。アセット・マネージャーが効果的に投資を行うには、オリジネーション能力とパイプラインがますます重要になるでしょう」とリグリー氏は述べています。

不動産セクターでは、テクノロジーの進化や人口動態、サステナビリティのメガトレンドと相まって、物件価格と長期的な潜在価値とのあいだにミスマッチが生じています。「ディスロケーションは短期的に市場価格に影響を与えますが、技術変革、人口動態のシフト、サステナビリティなどに関連する領域の資産にアクセスのある投資家にとっては恩恵があるでしょう」とリグリー氏は加えてコメントしました。

破壊的テクノロジー: AI、ソフトウェア、ヘルスケア、バイオテクノロジー

大手製薬会社やバイオテクノロジー企業は、研究開発、臨床試験の管理と運営、医薬品製造、医療および規制関連業務、市場へのアクセスやコミュニケーションなど、一部の中核的なビジネス機能をアウトソーシングしており、多大な恩恵をもたらしています。

「バイオ医薬品業界は、固定費から変動費へとコスト構造の転換が進んでおり、医薬品アウトソーシングセクターの構造的成長は続くでしょう。アウトソーシングサービスを提供する企業は魅力的な投資対象となるでしょう」とホイ氏は言います。

医療提供者は、賃金の見直し、人員不足、サプライチェーンのインフレ、消費者需要の低迷、臨床医の極度の疲労や診療報酬などの逆風に対するソリューションを必要としています。

パブリック市場ではバイオテック銘柄が一様に売られ、過去15年前のバリュエーションの水準に戻りました。

2024 年から 2025 年にかけては AIによる業務が増加し、観察・監視・データ管理のニーズがさらに高まり、ソフトウェアとクラウドの強化がさらに進むはずです。

「生成 AI の出現により、サイバー上に新たなチャンスと同時に脅威も生まれました。悪意のある攻撃者が AI を利用して攻撃の質を変え、その巧妙さを強化するにつれて、まったく新しい脅威ベクトルが出現しています。これにより、データ ガバナンスとセキュリティ、セキュリティ情報およびイベント管理 (SIEM) テクノロジーとそれらが収集するデータの重要性が、ゼロトラスト アーキテクチャとともに高まっています。規模が大きく、モデルをトレーニングするための膨大なデータセットと真のプラットフォームを備えた一部のベンダーは、クロスセルやアップセルが可能になり、かなりの恩恵を受けるでしょう」とホイ氏は述べています。

「企業が AI ワークロードを実行できるようなデータセンターの開発は、まだかなり初期段階にいます。クラウドサービスのプロバイダーは設備投資を積極的に増やしており、この傾向は 2026 年まで続くと予想されます。市場が 2023 年に注目していたのは一握りの業界リーダーでしたが、2024 年にはより幅広いベンダーもその恩恵を受ける可能性があります。市場が(データの)トレーニングに加えて推論に注目し始めているからです」とホイ氏は付け加えました。

サステナビリティ: 拡大するプライベート市場での投資機会

多くの投資家は、サステナブル投資のリターンが魅力的かつ重要であるだけでなく、競争力もますます高まっていることに気づいています。トランジションファンドや「インプルーバー」ファンドは、炭素を多く排出する産業のリーダー企業に対して、脱炭素化の取り組みを強化するための資本や金銭的インセンティブを提供しています。特に今年のバリュエーションの下落を考慮すると、クリーンテック企業は魅力的です。

再生可能電力と電気自動車の成長を受け、リチウムイオン電池の需要は2030年までに世界中で4.7テラワット時(300ギガファクトリー)に達すると予想されています。

「水資源を中心に重要な産業の多くで、資源効率の向上や気候変動の物理的影響緩和のための革新的なソリューションに対して、プライベート投資家は資金を投下しています。ソフトウェア、データ、スマートデバイスが重なるエリアは、2024年も引き続き投資の機会があるでしょう」とリグレー氏は語りました。

世界経済の 75% を脱炭素化するには、年間 3 兆 1,000 億ドルの費用がかかると試算されています。当初はニッチだったグリーンボンドの市場は、2007 年の初回発行以来 2 兆ドル規模の世界市場に拡大し、今後も重要な資金源となるでしょう。

拡大する社会経済的格差を縮小させることが喫緊の課題となる中、サステナビリティ投資家はソーシャルインパクトに注目するようになるでしょう。、金融包摂、健康的なライフスタイル、清潔な水や衛生設備へのアクセスとともに、公営住宅や教育へのアクセス、ヘルスケアに対する社会的ソリューションを提供する企業には注目すべきでしょう。

ポートフォリオの構築: 新しい発想、アクティブの維持、分散化、リスク管理

今のような市場サイクルの後半には、ポートフォリオ構築にあたり統合的なアプローチをとることで、パブリックとプライベート市場の構成と特性の違いによる恩恵を受けることができるでしょう。

世界の成長は乖離の様相を呈してきています。投資家は、最初の利下げを示唆するFRBの発言の変化など、リスクを引き起こす潜在的なきっかけに目を凝らす必要があるでしょう。経済活動、労働市場、インフレの鈍化がそのシグナルとなるかもしれません。マイナス成長を示すような証拠が世界的に見られれば、より広範なマイナス影響を危惧するようなマーケットの反応にもつながりえます。2024年中に予想される米国の金融緩和やセンチメントに対する過剰反応は、長期的なリスク配分を考える上でのシグナルとなる可能性があります。

 

 

 

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