
資産運用の効率性、収益性を高める一つの鉄則は、成長力に富む国や地域に投資することです。その意味で注目すべきなのが、いわゆる「新興国投資」。本年12月に創刊50年を迎える金融専門誌『投資信託事情』の発行人・編集長の島田知保さんに、新興国投資のメリットや実践のポイントなどについて語っていただきました。
(このインタビューは2008年4月3日に実施したものです。)
島田 知保 しまだ ちほ
文部省宇宙科学研究所秘書、衆議院議員公設秘書等を経て、1995年より「投資信託事情」(2008年2月よりイボットソン・アソシエイツ・ジャパン(株))発行人・編集長に。投資信託の評価、データ分析など専門家向けの仕事のほか、資産運用における自己防衛や心構え、長期投資の重要性などを一般投資家に伝えることを使命としてセミナー活動を行う。投資信託を買う側の視点に立って親身に語れる数少ない一人。ラジオNIKKEI「マーケット・トレンド」などでコメンテーターとしても活躍中。
人生で初めての海外旅行は中国でした。1981年のことです。当時歴史を専攻しており、自宅で長年中国からの留学生を世話していたこともあり、長い歴史を持つ中国を訪れたのです。欧米化の中で伝統を自ら捨てつつあった日本とはまったく違い、当時の中国は自国の文化を大切にしながらも、社会主義という未知の世界で、街行く人々が人民服を着ている時代でした。政治が人々に強いる沈黙も感じましたが、社会体制に縛られないしたたかな勢いというか、ダイナミックな資質も感じました。その後も新潟から旧ソ連のハバロフスク経由でウズベクなどを旅したり、ケニアとタンザニアに2カ月ほど滞在するなど、海外旅行といえばエマージング(新興)諸国に魅力を感じていました。
学生時代から新興国に関心があったせいか、生まれて初めて購入した投資信託もアジアの成長株に投資するタイプでした。知り合いの証券マンに勧められるまま、「そういえば私、アジアが好きかも」と深く考えずに購入しました。
この投資信託は今でも一部を持っています。ラッキーだったのは、これが再投資専用ファンドだったこと。あるとき気がついたら、基準価額はかなり下がっていたのですが、累積すると8000円以上出た分配金が税引後再投資されていたので、口数が非常に増えていました。アジアショックなどの洗礼も受けたため、基準価額は4000円台まで落ちたこともあります。でも、何しろ口数が増えているので、気が大きくなっている(笑)。その後、たとえ急激に値下がりしても、不安になって解約しようとは思いませんでした。むしろ、大きく値下がりすると「もっと買いたいなぁ」と考えたほどです。
結果的に、この投資信託にはずいぶん助けられました。まとまったお金が必要になったときなど、必要な金額だけ解約して便利に使っていましたから。それでも現在の残高は当初購入した額を上回っています。よく資産運用における成長株・成長国投資や長期投資の重要性が語られますが、私は身をもってその大切さを知ったと言えます。
少子化・高齢化の進展などにより、日本経済は成熟期を迎えています。そこで、日本や同様に成熟期にある先進国への投資だけでなく、今後の成長が期待される国や地域が投資対象として注目されています。これから成長していく国や地域を応援するために、リスクをとって自分の資産(お金)に出稼ぎに行ってもらい、その成長がもたらす収益で資産形成の効率化をはかる。これは長期的に見るなら合理的な資産づくりの考え方であり、ここに新興国に投資する意義があると思います。
かつて新興国への投資はサテライト(資産運用の中核ではなく、付属的な投資対象)として位置づけられていました。しかし、日本だけでなく欧米先進諸国も経済の成熟期を迎えている現在は、適度なウェイトで、新興国投資をポートフォリオにおける海外投資のコアに据えることを検討してもよいと思います。特に、これからの投資期間を長くとれる若い方は、大いに新興国投資を検討する価値があるでしょう。これは私自身の実体験もあるので、実感を持って言えます。新興国の株式は先進諸国のそれに比べ、値動きのボラティリティ(変動率)が高い傾向にあります。しかし、長期的な視点で投資を行えば、先進国より高い収益を積み上げていくことが期待できます。
では、中高年の方は新興国に投資してはいけないのでしょうか。もちろん、老後のための資金は安定運用を心がけることが基本になります。しかし現在では、仮に60歳でリタイアしても、20年、25年といった時間を持てる可能性が高いと言えます。ですから、ある程度の資産規模があるなら、それを効率的に運用するために、分散投資の一環として、許容できるリスクの範囲で新興国投資を検討することができます。この際に注意する点は、大きな資金で投資しすぎないこと、集中投資をしすぎないことでしょう。
こうした新興国投資の良きパートナーになるのが投資信託です。個別の商品にもよりますが、1万円などの少額から投資できる、定期的に積み立てることも可能、必要なときにいつでも購入・解約できる、といったメリットがあります。また、一つの投資信託が多様な銘柄に投資をするので、少額でも銘柄を分散する効果が得られます。新興国市場は初心者の個人投資家にとって個別銘柄を直接取引しにくいものですが、そうした市場の銘柄を手軽に保有することができる点も、投資信託という仕組みの魅力でしょう。ただし、新興国に限らず海外に投資する場合は、通貨をどのように分散するかで、為替リスクの大きさが相当程度異なることは意識しておきましょう。
新興国投資を行うにあたっては注意してほしい点があります。まず一つは流行に踊らされないこと。これからの成長が期待される国や地域は世界にたくさんあるため、新興国を投資対象とした投資信託も次々に設定されています。とはいえ、勧められたからとか、話題になっているからといった理由で、次々に新しい投資対象を追って投資信託を購入すると、かえって非効率な投資になりがちです。自分で納得のいくまで勉強したうえで、本当に応援したい国や分野に投資したいものです。
例えば、ある特定の国や地域だけに投資する新興国投信を買うなら、その国や地域の歴史、文化、経済などを自分なりに好きになったほうが楽しいでしょう。経済だけでなく幅広い関心を持つことで、仮に購入後に基準価額が下落しても、追加で購入すべきか、推移を見守る局面か、それとも損切りしたほうがよいのかといった対応策を自分で判断できる目が養われます。
また、ある国や地域について関心を持てば、その周辺の国や地域についても自然と目が向くようになります。そのように見ていくと、グローバルな視野も広がっていき、自分なりの見解も磨かれてくるでしょう。本来、投資は世界への扉を開くきっかけでもあり、世界が広がることで投資を検討する対象も広がっていくのではないでしょうか。
もう一つ重要になるのは、長期投資の視点です。日本もかつては新興国の一員でした。しかし、明治維新、昭和恐慌、敗戦などの歴史を経て、高度成長を果たしました。その後、バブル崩壊を経験したものの、経済的には先進国の一員となっています。現実には個人で100年もの長期にわたって投資することはできませんが、これくらいの時間感覚を持つと、新興国投資の本当においしいところを案外早く享受できると思います。
そこで大切になってくるのは、「新興国の成長を応援する」という気持ちです。明治維新後には海外からわが国に大量の資金が投資されました。仮に、この資金が短期間でさっと引き上げられていたらどうでしょうか。現在の日本はなかったかもしれません。これは自分のお金をどう働かせるかという哲学ともかかわってきますが、投資には夢や想像力、社会への貢献や投資結果に対する責任という側面もあると思います。エマージング諸国を応援するというスタンスで投資を行い、長期的な視点で成長を見守り続ける。そうすることで、その国も自分自身も、そして自分のお金も持続可能な成長ができれば最高でしょう。
投資信託は資産を運用するのに便利な金融商品であると思います。運用会社も長期投資の重要性をアピールするところが増えてきました。新興国投資についても、長期投資で時間を味方につけてそのメリットを上手に活用し、将来に備えての資産形成に役立てたいものです。






